2014年5月4日

モチベーションリソース 意欲の火種



適職に就いていないと実感している人の目には、意欲的に働ける場所を見つけた人はラッキーだったんだ。と映ることが多いようだ。
もちろん、職との出会いにも運や縁のような要素が含まれることは多いだろう。
しかし、運や、縁をつかむのも人次第、続けるのも人次第だ。

火種は誰しも持っている、そこに薪をくべ、焚き付ける要素があったとしても、それは火種を持っている人がいてこそ。
人財と仕事の縁は、火種と焚き付けの関係のようなものだと思う。

私が13年お世話になったスターバックスの“人財”について少し紹介したい


スターバックスが九州に初進出した2000年のこと、最初の面接から2回は不採用、3回目で採用された。当初採用への応募人数は相当な数だったと聞いていたが、私はブランドイメージや憧れも持たず、毎日エスプレッソがタダで飲める。というだけで(これ本当)、応募を重ねた。
飽き性で転職を繰り返した私がなぜ続けられたのかは、自分でもわからないが、人間につきものの障壁や悩みが生じても、仕事へのモチベーションが下がったことは無い、と、はっきり言い切れる。

意欲的に働いているイメージは周りにも持ってもらっていたはずだが、13年前の不採用時にあきらめていたら…壁に当たったときに辞めてしまっていたら…
今、得られたと実感している様々な財産は持ち得なかっただろう。

スターバックスの人材育成については、常にパーソナルな面で課題の抽出と、達成目標をもうけられる。
個々のスキルに応じて、関われる活動や、挑戦できる技能の段階があり、例えば学生アルバイトでも優秀なら、コーチングや店舗マネジメントにチャレンジし、人材育成や店舗運営に参加する機会が与えられる。
こう聞くと一見、未熟な要素を感じる人もいるかもしれないが、もちろんその前にはきちんと消化すべきカリキュラムがあり、それを通過した上で参加が認められる。
実際の活動に入ってからも、サポートする経験者がいる。

店内業務に関しては、育成段階で関わる人間が成熟している必要はなく、むしろ年齢が近いことで緊張が解け、スムーズに育成が進む、というメリットのほうが大きい。
また、顧客層が広い性質上、マネジメントに学生が関わることでサービスや商品管理などに若い視点を加えられるという利点もある。

そして多くの場合、これはオーナーシップの形成にもつながるのだ。

そもそもトップダウン型の育成方針はなく、マネージャーに対して学生アルバイトでも、行動是正があればきちんと、フィードバックという形で伝えるということが認められている。(フィードバックについては別でまた述べたい)
 
他にまだまだあるが、個人のモチベーションのきっかけになるものは何につけ、維持する仕組みが長けているような気がする。

発言の自由や、個性の尊重、スキルに合った業務レベルへの従事は、人が職場として身を置くのに快適さを生み出す、そしてこれらが会社のシステムに盛り込まれ、ルールとして保証されているので安心して働けるのだ。

同じ店舗で働いた大学生の中で、印象的な2人のエピソードをあげたい。

•T君…ある日、突然音を立てて雨が降り出した。外の様子を見にいったT君は、戻ってくるなりバックヤードに置いてある引き取り手の無いビニール傘をかかえて、再び出て行った。
見ると店の外のビルの陰で雨宿りをしている人たちに傘を配っているのだ。
店の外なので、ほとんどがお客様ではないが、みんな店の方を振り返りながら、T君にありがとう、と声をかけ去っていく。
戻ってきたT君は、「あと少しあるんで、帰るお客様で困っている人がいたら渡しましょう」と私に言ってカウンター内に傘を準備し、自分の仕事に戻った。

•Y君…ある日、レジに立つYくんの前に、年配の女性が来店された。
ゆっくりと足を進める様子を見て、席に着くのを見届けたT君は、「ちょっと行ってきますね」と言って、メニューを見せながら話を聞いている。
戻ってきたY君は、私にドリンクの指示をした後、トレーにサンドウィッチをいくつか載せ、再び女性の席へ。
「どれがいいですか?」と、具の説明をしている。Y君なりに、食べやすそうなものを選んでみたらしい。
お会計もテーブルチェック、お砂糖やミルクも入れて持っていく、、至れり尽くせり。
帰るときもゆっくりと出口に向かう女性を見守る。

本人の自覚は全くないが、2人の一連の行動は、軽くオーナーシップの形をとっている。トップダウン型の指示がなくても、迷い無く自分の判断で動くことができる。同僚にとって模範を示した上、ブランドイメージへ貢献する、という双方向への利益を生み出している。

店の顧客以外にも傘を配ったT君の行動も、年配の女性に気遣いのサービスをしたY君の行動も、“単に親切なだけ”“個人店では普通にやってること”と言ってしまえばそれまでだが、大きな業態で個人の良心を仕事に持ち込めることは、それだけ組織に安心感や信頼があるからだと思う。

人は誰しもモチベーションの火種をもっている。
火を起こし、燃やし続ける鍵は、薪と風の使い方にあるかもしれない。